エッセイ

パリ、バルセロナ、東京。モテる男、というのはこういうことなんだな、と思った

まだ、日本の企業にゆとりがあった頃。
そしてその頃、僕も30代だった。
とある日用品メーカに勤務していて、その会社で広告などを作る部署にいた。
そして、ある女優さんとの仕事で、バルセロナで撮影することになった。
バルセロナで撮影だったのだけど、どういうわけか、成田からパリに入り、そこでトランジット、というかなぜか2泊。パリを2泊3日で楽しんだ後、バルセロナに入り撮影をした。
冒頭で、「まだ、日本の企業にゆとりがあった頃」と書いたのはそういうことだ。
この撮影ツアーは、ある代理店が担当していたけど、今回の主人公はその担当営業のTさん。
Tさんは、僕とほぼ同い年。だから30代前半。シュッとした感じの、当時の言い方をすると、さっぱりした醤油顔のいい男だった。白いシャツを無造作に着ていたが、そのシャツは細かいところにデザインの工夫がある。スマート。この言葉が似合う男だった。

パリの5つ星のホテル

パリでは、オペラ座の側にある5つ星のホテルに泊まった。決して大きくはないけど、クラシックなホテル。3回目になるけど「まだ、日本の企業にゆとりがあった頃」だったから。
最初の夜は、女優さんもクルーも、全員で空港で夕食はすませていた。僕は、少しでも雰囲気を楽しもうと、ホテルのロビーに降りて行った。
すると、T氏がいる。
しかも一人ではなく、金髪のショートカットが愛くるしい同世代の女性と親しそうに話している。細身のジーンズとマニッシュなシャツをさりげなく着ているが、相当なお洒落だ。ボーイッシュ。
T氏は僕を見つけると
「パリの友達です」と紹介してくれた。名前はミッシェルだったと思うけど、正確には覚えていない。青い目が印象的だった。
当たり前だけど、二人はフランス語で会話している。
T氏は暁星を出ていて、フランス語での会話は、全く問題がなかった。
「少し、パリの飲み屋でも行きますか?彼女が案内してくれるので」
僕たちは、彼女が連れて行ってくれたパリの裏通りの、現地の人率の高いビストロとバーの間のようなお店に連れて行ってもらい、簡単な料理とワインを楽しんだ。
T氏に「どういう関係?」と無粋にも尋ねると「友達です。でも結婚してくれって、うるさいんですよね」という返事。
まあ、そうだよな、と思いながら、二人の邪魔をするのもどうなんだ、と思い、白と赤をグラスで一杯ずつ空けたところで僕はホテルに戻った。

バルセロナの5つ星ホテル

バルセロナに移動した。やはりホテルは5つ星。もう皆さんもわかっていると思うけど「まだ、日本の企業にゆとりがあった頃」だったから。
さて、いざチェックイン、というときに、一人の茶色の瞳の可愛らしい女性が太陽のような笑顔でT氏の側にいる。
大きなウエーブを描くブラウンの髪は、肩の少し下まで届いている。
立体的な裁断、3つの波が畝っているようなデコレーションが左右にあるブラウス。そして激しく盛り上がるバスト。膝下までフレアスカート。
バルセロナのお嬢様。
T氏に「この女性は?」と尋ねると
「友達です。結婚してくれってうるさいんですよ」
彼は彼女に、スペイン語で会話をし、その夜は、また3人でバルセロナのバルへ行った。もちろん二人の邪魔をするのは本意ではないので、ワイン2杯で早々にホテルに戻ったけど。

東京の夜

無事にバルセロナでの撮影が終わり、鎌倉に戻って数日後だったと思う。
一通の手紙が郵便受けに入っていた。
結婚パーティの案内状だ。
何と、差出人はT氏。
相手はパリジェンヌかそれともバルサのお嬢様か?

もちろん、僕はそのパーティに出席した。
T氏と相手の彼女はみんなに祝福されて、幸せそうだった。
花嫁は、日本人。肩下まで伸びたストレートな黒い髪には赤い花が飾られ、アーモンドの形の目の中には黒い瞳。美人。白いドレスが似合っていた。

まあ、モテる男っていうのは、こういうことなんですよ。

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