いつのまにか、コーヒーが好きになっていた。
若いころはコーヒーを「美味しい」と感じたことはなく、眠気覚ましとして、あるいは甘いものを飲むよりはいいかな、という程度でコーヒーとは付き合ってきた。ちょっと休もうか、美味しいコーヒーでも淹れて、なんてことは全く縁がなかった。ココアの方が美味しく感じたし、ミルク紅茶も好きだったし。
ところが、ここのところ、俄然、コーヒーを美味しく感じるようになった。香り、苦味、酸味……表現するのが難しいけど。
今日は、そのコーヒーにまつわる話。いや、不思議なコーヒーショップの店主の話です。
Contents
コーヒーは魔力を得る秘薬なのか?
コーヒーがヨーロッパ史の中に顔を出すようになった当初は、修道僧の秘薬として扱われている。
やはりコーヒーには魔力があるのだ。フランスのある政治家は、 よいコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い。 と言った。
やはりコーヒーには魔力があるに違いない。
私がそう思わざるを得なかったあるコーヒーショップのマスターの話を今日はさせていただきます。
その店主はカウンターに座った私に、信じられないことを言った
そのコーヒーショップは九州のK市にある。ある人に紹介されて、少しミステリアスな雰囲気の階段を降りて地下のその店に入った。
店主は、自分のその店をコーヒーバーと呼んでいたので、私もそう呼ばせてもらうことにする。

そのコーヒーバーのカウンターに座ると、店主は私と目線を合わそうとはせず、メニューを私の手元に滑らせて、ボソッと、しかし確実に私に届く声で言った。
「うちには、コーヒーのメニューは6,000種類あります」
えーーー、そっちも何千種類もあるんですか?
6,000種類もあったのでは、何から飲んでいいか分からない。
もう一度メニューを見た。
すると、チーズケーキと書いてある。
店主の雰囲気とコーヒーはマッチするが、チーズケーキはどうだろう、と戸惑っていると、まるで私の胸の内を見透かしたように、「チーズケーキは2,000種類あります」
……
マジか。
6,000種類のコーヒーと2,000種類とチーズケーキと。組み合わせは12,000,000通りもある。こうなると私にはオーダーのしようが無い。お手上げだ。これまでの人生でもそうしてきたように、もう、マスターに全てをお任せした。
マスターは、今の私に必要な1杯とa peace of cakeを選び、私の前に持ってきたくれた
あの夜のコーヒーとチーズケーキのことは一生忘れない。
冬のことだったからもう半年以上も前のことだし、マスターの毒気に当たったのか、どういうプロセスでそのコーヒーとチーズケーキが選ばれたのかよく覚えていない。今日の仕事はどうだったかとか、外は寒かったか、とか。女の趣味まで聞かれたような気がする。とにかくマスターによる取材が数分間あって、マスターは何かを決断したように、クルッと後ろを振り向いて、豆を選び、コーヒーを淹れるためのマスターの手のかかったオリジナルの道具を使って、私の前に、一杯のコーヒーが現れた。
既に、その時点でヤバかった。カップから立ち上る香りにやられそうになった。

そして、チーズケーキ。
そのコーヒーに合った、まるで数百年の時を経て形を作ったようなそのチーズケーキは、味より先ず、その香りがコーヒーのそれと混ざり合い、何と言ったらいいか……セクシーな、いやはっきり言おう。隠微な香りがした。
さて、この記事で書きたかったのは、実はこのマスターが、コーヒーの魔力を使って(と私が推測しているのだが)透視したときの話だったんのですが、少し長くなったので、この記事はここまで。
透視については、また書きますね。
ちなみに、このコーヒーショップは、いや、コーヒーバーは実在しています。
