あれは、30歳になったか、まだなだてなかったか。いずれにせよ、数十年前のことなのですが。
ある日、ふと気づいたら、ベンチに寝ていた。時刻は16時くらいだったと思う。まだ日暮れ前明るかった。多分、初夏のいい気候の時だったと思う。
どうやら何処かの地方の鉄道の駅らしい。周りを見渡すと「衣笠」の表示看板。
当時、私は鎌倉に住んでいたのだが、どうやら横須賀線で鎌倉を過ぎて、衣笠で降りたらしい。そしてベンチで寝ていた。
日暮れ前で、よかったなぁ
ウィークデイだった。さっきまで東京は日本橋のオフィスで働いていた。そこまでは覚えているんだけど、それから先が数時間欠落していて、結局、衣笠のホームのベンチで目が覚めた。なぜ、会社を出たのか、さっぱり覚えてなかった。
それ程、仕事でプレッシャーを受けていたわけではなかったけど、こういうことがあるのだなあ、と思った。仕事のし過ぎだったのだろうか……人間の不思議というか……とにかく気をつけよう、自分をしっかり観察しよう、と思った。
いずれにせよ、何事もなくてよかった、と思った。また、現実的には、まだ日暮れ前でよかった。これがもう折り返しの電車がない時刻だったら、タクシーに乗って帰宅しなければならない。当時の私には(今の私にもだけど)多大な損失になる。
夜明け前で、よかったなぁ
ついこの前、一緒に仕事をしている後輩(男子)から、似ているような話を聞いたので書いておく。
30代の彼は(Hと呼ぶことにする)、自他共に認める寂しがりやで、仕事が終わったら、誰かと飲みに行かないと収まらない。
その日は出張で、出張先の飲み屋で痛飲したそうだ。
当然、ブラックアウト。
気づいたら、ホテルにいた。しかも廊下。
ここまではまだいい。特筆すべきは、Hは何も身につけておらず、ホテルの廊下に仁王立していたのですよ。
ご存知の通り、ほとんどのホテルはオートロック。Hはパンツも何も身につけていなかったが、ホテルの部屋の鍵だけは、どこかにぶら下げていた、といった奇跡は先ず起こらない。
Hは、まだ夜が明けていないこと、周囲に誰もいないことを改めて確認し、エレベータに乗ってフロントに行き、カードキーとバスタオルをもらって一目散に部屋に戻り、事無きをえたそうだ。
やれやれ。
仕事のし過ぎも問題だが、酒の飲み過ぎも問題だ。
それにしても、H君、まだ夜明け前でよかったね。
